「認知症といっても種類があるって聞いたけど、何が違うの?」「親がアルツハイマーと診断されたけど、どんな病気?」
認知症は「ひとつの病気」ではなく、いくつかの異なる疾患の総称です。種類によって原因・症状の特徴・進み方・治療法が異なるため、正しく理解しておくことがとても大切です。
調剤薬局で処方箋をお受けする中で、「先生にアルツハイマーと言われたけど、他の認知症と何が違うの?」と聞かれることがよくあります。
この記事では、認知症の主な4つの種類・それぞれの特徴と違い・薬との関係をわかりやすく解説します。
① 認知症とは?まず基本を確認
認知症とは、脳の神経細胞が障害されることで、記憶・判断力・言語などの認知機能が低下し、日常生活に支障をきたす状態のことをいいます。
「もの忘れ」とは異なり、認知症は脳の病気によって起きるものです。
| 加齢によるもの忘れ | 認知症 | |
|---|---|---|
| 原因 | 脳の老化(正常範囲) | 脳の病気による神経細胞の障害 |
| 忘れ方 | 体験の一部を忘れる | 体験そのものを忘れる |
| 自覚 | 忘れたことに気づく | 忘れたこと自体に気づかない |
| 進行 | 進行しない | 徐々に進行する |
| 日常生活 | 支障なし | 支障が出てくる |
② 認知症の主な4つの種類
認知症には多くの種類がありますが、日本で特に多いのは以下の4つです。
| 種類 | 割合(目安) | 主な原因 |
|---|---|---|
| アルツハイマー型認知症 | 約60〜70% | アミロイドβなどのタンパク質の蓄積 |
| 血管性認知症 | 約20% | 脳梗塞・脳出血などによる血流障害 |
| レビー小体型認知症 | 約10〜15% | レビー小体(神経細胞内に異常なタンパク質が塊になったもの)の蓄積 |
| 前頭側頭型認知症 | 約5% | 前頭葉・側頭葉(おでこ側・こめかみ側にある脳の部位)の神経細胞の変性 |
それぞれの特徴を詳しく見ていきます。
③ アルツハイマー型認知症|最も多い認知症
どんな病気?
アルツハイマー型認知症は、脳にアミロイドβ(ベータ)というタンパク質が蓄積し、神経細胞が徐々に壊れていく病気です。記憶障害が主な症状として出やすく、ゆっくりと進行します。
主な症状
初期:
- 最近のことを忘れる(数分〜数時間前の出来事)
- 同じことを何度も繰り返し聞く・話す
- 物の置き場所を忘れる・探し回る
- 日付・曜日がわからなくなる
中期:
- 家族の顔や名前がわからなくなる
- 着替えや食事など日常的な動作が難しくなる
- 徘徊(はいかい・目的なく歩き回る)・帰宅困難になる
後期:
- 言葉が出てこなくなる
- 歩行・飲み込みが困難になる
特徴的なポイント
- ゆっくり進行する(発症から診断まで数年かかることも)
- 初期は近時記憶(きんじきおく・数分〜数日前の出来事の記憶)の障害が目立つ
- 比較的早い段階から生活支援が必要になる
主な治療薬
| 薬の名前 | 一般名 | 特徴 |
|---|---|---|
| アリセプト | ドネペジル | 最もよく使われる・重症度問わず |
| イクセロンパッチ | リバスチグミン | 貼り薬タイプ |
| レミニール | ガランタミン | 軽度〜中等度に使用 |
| メマリー | メマンチン | 中等度〜重度に使用 |
※これらの薬は認知症の「進行を遅らせる」ものであり、根本的に治す薬ではありません。
④ 血管性認知症|脳梗塞・脳出血が原因
どんな病気?
脳梗塞や脳出血などの脳血管障害によって脳の一部が障害され、認知機能が低下する認知症です。脳の血流が滞った部位によって、症状が異なります。
主な症状
- 脳血管障害の発症後に突然認知機能が低下する
- 記憶よりも判断力・実行機能の低下が目立つことがある
- まだら認知症:できることとできないことのムラがある
- 感情失禁(些細なことで泣く・怒るなど、感情のコントロールが難しくなる状態)
- 歩行障害・ろれつが回らないなど身体症状を伴うことが多い
アルツハイマー型との大きな違い
| アルツハイマー型 | 血管性認知症 | |
|---|---|---|
| 進行の仕方 | ゆっくり・なだらかに進む | 階段状に進む(脳血管障害のたびに悪化) |
| 最初の症状 | 記憶障害が目立つ | 実行機能・判断力の低下が目立つ |
| できることのムラ | 少ない | 多い(まだら認知症) |
| 身体症状 | 初期は少ない | 麻痺・歩行障害などを伴うことが多い |
主な治療・予防のポイント
血管性認知症には現時点でアルツハイマー型のような認知症専用の薬はありません。治療の中心は再発予防です。
- 血圧・血糖・脂質の管理
- 抗血栓薬(血液が固まりやすくなるのを防ぎ、脳梗塞の再発を予防する薬)
- 生活習慣の改善
血管性認知症は「脳梗塞を起こさない」ことが最大の予防策になります。
⑤ レビー小体型認知症|幻視(見えないものが見える)が特徴の認知症
どんな病気?
脳にレビー小体(神経細胞の中に異常なタンパク質が塊になったもの)が蓄積し、神経細胞が障害される認知症です。パーキンソン病と同じタンパク質が原因のため、パーキンソン症状(手足の震え・筋肉のこわばり)を伴うことが特徴です。
在宅医療の現場では、アルツハイマー型と間違われやすく、後から「実はレビー小体型だった」と判明するケースも経験しました。
主な症状(特徴的な3つ)
① 幻視(リアルな幻覚が見える)
「部屋に知らない人がいる」「虫がたくさんいる」など、存在しないものがリアルに見えるのがレビー小体型認知症の最大の特徴です。本人にとってはリアルに見えているため、強く否定するのは逆効果です。
② 認知機能の変動
1日の中で、あるいは日によって、意識や認知機能の状態が大きく変わります。午前中はしっかりしているのに、午後はぼんやりしている、というようなことが起きます。
③ パーキンソン症状
- 振戦(しんせん・手足の震え)
- 固縮(こしゅく・筋肉のこわばり)
- 歩行が小刻みになる
- 転倒しやすくなる
薬の使用に注意が必要
レビー小体型認知症は、特定の薬に非常に反応しやすいため注意が必要です。
- 抗精神病薬(幻覚を抑えるための薬)→ 薬剤過敏性(通常量でも重篤な副作用が出やすい状態)が起きることがある
- 一部のパーキンソン病の薬 → 幻覚が悪化することがある
在宅医療の現場でも、レビー小体型認知症の方に抗精神病薬が処方されて急激に状態が悪化したケースを経験しています。現在飲んでいる薬や病状との飲み合わせを必ず専門医・薬剤師に確認するようにしてください。
⑥ 前頭側頭型認知症|性格・行動が変わる認知症
どんな病気?
前頭葉と側頭葉(おでこ側・こめかみ側にある脳の部位)の神経細胞が変性する認知症で、「ピック病」とも呼ばれます。比較的若い年齢(40〜60代)で発症することが多く、性格・行動の変化が先に現れるのが特徴です。
主な症状
- 社会的なルールを守れなくなる(万引き・暴言など。本人に悪意はない)
- 常同行動(じょうどうこうどう・毎日まったく同じ行動を繰り返す)
- 食事の内容が偏る(特定のものしか食べなくなる)
- 言葉が出にくくなる・理解しにくくなる
- 初期は記憶障害が少ない(アルツハイマー型との大きな違い)
周囲の理解が特に重要
前頭側頭型認知症は「わがままになった」「性格が悪くなった」と誤解されやすく、本人が責められてしまうことがあります。これは病気による症状であることを、家族・周囲が理解することがとても大切です。
⑦ 4つの認知症比較表
| アルツハイマー型 | 血管性 | レビー小体型 | 前頭側頭型 | |
|---|---|---|---|---|
| 割合 | 最多(60〜70%) | 約20% | 約10〜15% | 約5% |
| 発症年齢 | 65歳以上に多い | 高齢者 | 高齢者 | 40〜60代も |
| 最初の症状 | 記憶障害 | 判断力低下 | 幻視・変動 | 性格・行動変化 |
| 進行 | ゆっくり | 階段状 | 変動あり | ゆっくり |
| 特徴的な症状 | 近時記憶の障害 | まだら・身体症状 | 幻視・パーキンソン症状 | 常同行動・社会性の低下 |
| 主な薬 | コリンエステラーゼ阻害薬 | 再発予防薬 | コリンエステラーゼ阻害薬 | 対症療法中心 |
⑧ 認知症の種類を知ることが大切な理由
① 症状への対応が変わる
幻視があるレビー小体型では「見えていないよ」と否定するより「怖かったね」と共感するほうが、本人の安心につながります。また、前頭側頭型では「わがままを叱る」より「病気の症状として受け止める」ことが重要です。
② 使える薬・使えない薬が変わる
認知症の種類によっては使わない方がよい薬があります。種類を把握しておくことが、薬の安全な使用につながります。
③ 予防・進行抑制のアプローチが変わる
血管性認知症は血圧・血糖管理が最優先です。アルツハイマー型は認知症予防薬・サプリも選択肢になります。
⑨ 受診・相談先について
認知症が疑われる場合は、まずかかりつけ医・内科に相談するのが第一歩です。必要に応じて神経内科・精神科・もの忘れ外来に紹介してもらえます。
- 初期症状が気になる → かかりつけ医・もの忘れ外来
- 幻覚・パーキンソン症状がある → 神経内科
- 行動・性格の変化が著しい → 精神科・神経内科
まとめ|認知症の種類と特徴についてのポイント整理
認知症の4つの種類について整理すると、
- アルツハイマー型は最も多く、記憶障害からゆっくり進む。進行を遅らせる薬がある
- 血管性は脳血管障害のたびに悪化する。再発予防が最重要
- レビー小体型は幻視・認知機能の変動が特徴。使えない薬があるため専門医への相談が必須
- 前頭側頭型は記憶より先に性格・行動の変化が起きる。周囲の理解が特に大切
「認知症」とひとくくりにせず、どの種類なのかを知ることが、本人と家族にとっての正しいケアへの第一歩です。
症状が強い場合や長く続く場合は、一度薬剤師や医療機関にご相談ください。
※本記事は調剤薬局・在宅医療を経験した薬剤師による一般的な情報提供を目的としています。診断・治療については必ず医療機関にご相談ください。
