「食事も薬も気をつけているのに、なぜか血糖値が下がらない」

「睡眠が短いと、血糖値に影響するって本当?」

「HbA1cがなかなか改善しない。その原因がわからない」

薬局では、こうした相談を受けることがあります。

調剤薬局・在宅医療を経験した薬剤師として、血糖値の管理に悩む方と話していると、食事・運動・薬は意識していても、「睡眠」が抜け落ちているケースが少なくありません。

睡眠不足は、ホルモン、自律神経、食欲、インスリンの効きに関わり、血糖値にも影響します。

この記事では、睡眠不足と血糖値の関係、睡眠時無呼吸症候群、睡眠の質を下げる習慣、改善のポイントをお伝えします。

睡眠不足で血糖値が上がりやすくなる理由

「睡眠と血糖値は別の話では?」と思う方もいるかもしれません。

でも体の中では、睡眠と血糖値は深くつながっています。

睡眠不足が続くと、血糖値を上げるホルモンが増えたり、インスリンの効きが悪くなったりします。

① ストレスホルモンが増えやすくなる

睡眠不足になると、体はストレスを受けている状態になります。

そのときに増えやすいのが、コルチゾールというホルモンです。

コルチゾールは、体を活動モードにする一方で、肝臓から糖を出し、血糖値を上げる方向に働きます。

短期間なら大きな問題にならなくても、睡眠不足が続くと、血糖値が下がりにくい状態につながることがあります。

② インスリンの効きが悪くなる

インスリンは、血液中の糖を細胞に取り込ませるホルモンです。

睡眠不足が続くと、このインスリンの効きが悪くなることがあります。

これをインスリン抵抗性といいます。

同じ食事をしていても、インスリンが効きにくい状態では、食後の血糖値が上がりやすくなります。

③ 食欲が乱れやすくなる

睡眠不足になると、食欲を調整するホルモンにも影響します。

食欲を高めるホルモン(グレリン)が増え、満腹を感じやすくするホルモン(レプチン)が減ることで、食べたい気持ちが強くなりやすいです。

特に、夜更かしをしていると、甘いもの、脂っこいもの、炭水化物が欲しくなることがあります。

これは意思の弱さだけではなく、体のホルモンバランスも関係しています。

④ 交感神経が優位になりやすい

睡眠不足は、自律神経にも影響します。

交感神経が高ぶると、体は緊張した状態になり、アドレナリンなどのホルモンが出やすくなります。

アドレナリンも血糖値を上げる方向に働くため、睡眠不足が続くと血糖コントロールが乱れやすくなります。

睡眠不足が続くと起こりやすいこと

睡眠不足は、ただ眠いだけではありません。

血糖値や体重、生活習慣病の管理にも関係します。

① 糖尿病リスクが上がりやすくなる

睡眠時間が短い状態が続くと、2型糖尿病の発症リスクが高まる可能性があると報告されています。

特に、睡眠時間が6時間未満の日が続く方では注意が必要です。

ただし、血糖値は睡眠だけで決まるものではありません。

食事、運動、体重、遺伝、ストレス、持病、薬なども関係します。

その中のひとつとして、睡眠も血糖管理の大切な要素だと考えてください。

② HbA1cが下がりにくくなることがある

HbA1cは、過去1〜2か月の平均的な血糖の状態を反映する検査値です。

睡眠不足が慢性化すると、食欲の乱れ、夜食、運動不足、インスリンの効きの低下が重なり、HbA1cが下がりにくくなることがあります。

担当していた55歳の男性は、食事管理も薬もきちんと続けているのにHbA1cが7.5%前後から下がらないと悩んでいました。「何が足りないんだろう」と話す中で、仕事の都合で毎日4〜5時間しか眠れていないことがわかりました。「睡眠が血糖値に影響するとは思っていなかった」とのこと。主治医にも相談して睡眠時間を7時間確保するよう生活を調整したところ、3か月後のHbA1cが7.1%に改善していました。「まさか寝るだけで変わるとは」とおっしゃっていたのが印象に残っています。食事でも運動でもなく、「眠れていないこと」が血糖管理の盲点になることがあります。

③ 肥満との悪循環に入りやすい

睡眠不足になると、食欲が増えやすくなり、夜食や間食も増えがちです。

その結果、体重が増えると、インスリンの効きがさらに悪くなり、血糖値が上がりやすくなります。

血糖値が上がる

体がだるくなる

運動量が減る

体重が増える

さらに血糖値が上がる

このような悪循環に入ることがあります。

食事制限だけを頑張るより、睡眠を整えたほうが続けやすい方もいます。

睡眠時無呼吸症候群と血糖値の関係

血糖値がなかなか改善しない方で、見落とされやすいのが睡眠時無呼吸症候群です。

睡眠時無呼吸症候群とは、眠っている間に何度も呼吸が止まったり、浅くなったりする病気です。

本人は眠っているつもりでも、体は何度も低酸素状態になり、交感神経が刺激されます。

その結果、血糖値や血圧に影響することがあります。

① こんなサインがあれば注意

次の項目に当てはまる方は、睡眠時無呼吸症候群の可能性があります。

チェック項目見ておきたいポイント
大きないびきをかく途中で止まる、急に再開する場合は注意
夜中に何度も目が覚めるトイレ以外の覚醒も確認
朝起きても疲れが取れない十分寝たはずなのに眠い
日中に強い眠気がある会議中、運転中、食後など
朝の頭痛がある低酸素や睡眠の質低下が関係することも

家族から「いびきがすごい」「息が止まっている」と言われたことがある方は、早めに相談してください。

また、睡眠不足は認知症との関連もわかってきました。関連記事も参考にしてみてください。

② 治療で改善できる場合がある

睡眠時無呼吸症候群は、検査で確認できます。

必要に応じて、CPAP療法という、寝ている間に空気を送って気道を広げる治療が行われることがあります。

睡眠の質が改善すると、日中の眠気、血圧、血糖管理がよい方向に向かうことがあります。

「寝ても疲れが取れない」「血糖値が下がりにくい」と感じる方は、睡眠の質も確認してみてください。

睡眠の質を下げる意外な習慣

血糖値を気にしている方ほど、寝る前の過ごし方も見直したいところです。

① 寝る前のスマートフォン

スマートフォンやタブレットの画面は、寝る前の脳を刺激します。

画面の光や情報の刺激で、眠りに入りにくくなることがあります。

就寝前の1時間は、スマートフォンを見る時間を減らすのがおすすめです。

難しい場合は、画面の明るさを下げる、通知を切る、寝室に持ち込まないなど、できるところから始めてください。

② 寝酒

「お酒を飲むと眠れる」と感じる方は多いです。

たしかに、アルコールで寝つきがよくなることはあります。

しかし、睡眠の後半で眠りが浅くなり、途中で目が覚めやすくなります。

さらに、アルコールは血糖値や肝臓にも影響します。

血糖管理中の方は、寝るためにお酒を使う習慣は見直したほうがよいです。

③ 夜遅い食事

就寝直前の食事は、血糖値が高い状態を睡眠中まで持ち越しやすくなります。

胃腸も働き続けるため、睡眠の質が下がることがあります。

夕食は、できれば就寝2〜3時間前までに済ませるのが理想です。

どうしても遅くなる場合は、揚げ物や大盛りの炭水化物を避け、消化のよい内容にすると負担を減らせます。

血糖値改善につながる睡眠の整え方

睡眠を整えるといっても、いきなり生活を大きく変える必要はありません。

まずは、続けやすいところから始めてみてください。

① まずは今より30分早く寝る

理想は7〜8時間の睡眠ですが、いきなり達成するのは難しい方も多いです。

まずは、今より30分早く寝ることを目標にしてみてください。

30分でも積み重なると、1週間で3時間以上の差になります。

夜のスマートフォン、テレビ、家事を少し前倒しにするだけでも変わります。

② 起きる時間をそろえる

睡眠のリズムを整えるには、寝る時間よりも起きる時間をそろえるほうが始めやすいです。

毎日同じ時間に起きると、体内時計が整いやすくなります。

休日に昼近くまで寝てしまうと、夜の寝つきが悪くなり、翌週の睡眠リズムが乱れることがあります。

③ 朝の光を浴びる

起きたら、カーテンを開けて朝の光を浴びてください。

朝の光は、体内時計をリセットし、夜の眠気を作る助けになります。

曇りの日でも、屋外の光は室内より明るいです。

朝に数分ベランダへ出る、通勤時に少し歩くなど、できる方法でかまいません。

④ 寝室を眠りやすい環境にする

寝室は、できるだけ眠るための場所に整えましょう。

明るさや温度、寝具も身体に合うものにするなど、ありきたりなことですが、ひとつずつ見直すと意外な気づきもあると思います。

まずは、スマホを枕元から離す、寝る前の照明を少し暗くするなど、ひとつだけ変えてみてください。

受診・相談したほうがよいサイン

次のような場合は、睡眠の問題が血糖管理に影響している可能性があります。

・食事、運動、薬を続けているのにHbA1cが改善しない
・家族から大きないびきや無呼吸を指摘された
・朝起きても疲れが取れない
・日中に強い眠気がある
・夜中に何度も目が覚める
・睡眠薬やアルコールに頼らないと眠れない
・低血糖や夜間の体調不良が心配

睡眠時無呼吸症候群が疑われる場合は、かかりつけ医、内科、耳鼻咽喉科、睡眠外来などに相談できます。

糖尿病治療中の方は、血糖値の記録やHbA1cの変化も一緒に伝えると、相談がスムーズです。

まとめ|睡眠はもうひとつの血糖管理

睡眠不足と血糖値の関係について整理すると、

・睡眠不足は、ストレスホルモン(コルチゾール)やアドレナリンなど血糖値を上げるホルモンに関係する
・インスリンの効きが悪くなり、同じ食事でも血糖値が下がりにくくなることがある
・睡眠不足は食欲を乱し、夜食や間食、体重増加につながりやすい
・食事、運動、薬を続けてもHbA1cが下がりにくい場合、睡眠が盲点になっていることがある
・大きないびき、無呼吸、日中の眠気がある方は睡眠時無呼吸症候群にも注意する
・まずは30分早く寝る、起きる時間をそろえる、朝の光を浴びることから始める

血糖値の管理というと、食事と運動に目が向きやすいです。

もちろん、それらはとても大切です。

ただ、睡眠が乱れていると、せっかくの努力が結果に出にくくなることがあります。

「ちゃんとやっているのに血糖値が下がらない」と感じる方は、睡眠時間と睡眠の質も一度見直してみてください。

症状が強い場合や長く続く場合は、一度薬剤師や医療機関にご相談ください。

※本記事は調剤薬局・在宅医療を経験した薬剤師による一般的な情報提供を目的としています。
症状が強い場合や不安がある場合は、医療機関にご相談ください。

血糖値の管理、糖尿病治療、睡眠薬の使用・変更については、必ず主治医または薬剤師にご相談ください。