「先生から認知症と言われた。これからどうすればいいの?」「何から手をつければいいかわからない」「家族に伝えるべき?」

認知症と診断された直後は、頭が真っ白になって何も考えられないという方がほとんどです。

調剤薬局・在宅医療を経験した薬剤師として、診断直後に何をすればいいかわからず途方に暮れているご本人・ご家族と向き合うことが多くありました。

まずお伝えしたいのは、診断されたからといって、すぐにすべてが変わるわけではありません。

今できていることが明日から急にできなくなるわけではありません。大切なのは、焦らず、現状と今後のことを考えることです。

この記事では、認知症と診断された直後にやるべきこと・やっておくべきこと・使えるサービスを優先度順に薬剤師の視点から整理します。


まず「すぐ」できること

① 処方された薬を正しく飲み始める

診断後に薬(アリセプトなど)が処方された場合は、正しく飲み始めることが最優先です。

認知症の薬は「早く飲み始めるほど、進行を遅らせる期間が長くなる」可能性があります。

薬を受け取ったときに薬剤師に確認すること:

  • いつ飲むか(朝・夕・就寝前)
  • 副作用で注意すること(特に吐き気・めまい)
  • 飲み忘れたときの対処法
  • 他の薬・サプリとの飲み合わせ

副作用が出ても自己判断でやめず、まず薬剤師・医師に相談してください。


② お薬手帳を見直す

今後、複数の医療機関・薬局を利用する機会が増えますかもしれません。

お薬手帳は安全な医療を受けるための大切な情報です。

  • 現在飲んでいるすべての薬(市販薬・サプリ含む)を記載
  • アレルギー・副作用が出た薬も記録
  • 外出時は必ず持参する習慣をつける

③ かかりつけ薬局、かかりつけ薬剤師を決める

複数の病院から薬が処方されている場合は、1つの薬局にまとめること(かかりつけ薬局)をおすすめします。

1つの薬局にまとめると、飲み合わせ・重複処方を薬剤師がチェックできるようになります。

また、薬剤師が飲んでいる薬、体調、症状を把握できるため薬の変更・副作用の相談がしやすいのもメリットの1つです。


「1週間以内」にしておくこと

④ 家族・信頼できる人に伝える

認知症の診断を一人で抱え込んでしまう方がいますが、信頼できる家族・人に伝えることが今後の自身の、ひいては周りの人の安心につながります。

伝える内容としては、「診断された認知症の種類」「処方された薬とその目的」「今後の治療方針・受診スケジュール」「自分がどう過ごしたいか(できる範囲での意思表示)」

特に、自分がどう過ごしたいかの意思表示をしておくことはとても重要で、それを「まだ自分で判断できる段階に伝えること」が大切です。 進行してから伝えると、本人の意思が反映されにくくなります。


⑤ 地域包括支援センターに相談する

地域包括支援センターとは、認知症に関する相談を無料で受け付けている公的な窓口です。

相談できることとしては、以下の通りです。

  • 介護保険の申請方法
  • 利用できるサービスの案内
  • 認知症カフェ・家族会の紹介
  • 在宅生活を続けるための支援策

「まだ介護が必要な段階ではない」と思っていても、早めに相談しておくことで、万が一助けが必要になったときにスムーズに動けます。まずは最寄りの地域包括支援センターがどこにあるのかを調べてみましょう。


⑥ 介護保険の申請を検討する

認知症と診断されたら、早めに介護保険の申請を検討してください。

申請から認定まで1〜2ヶ月かかるため、必要になってから申請すると間に合わないことがあります。

介護保険で使えるサービス:

  • 訪問医療
  • 訪問薬剤師
  • デイサービス(通所介護)
  • 訪問介護(ホームヘルプ)
  • 訪問看護
  • 福祉用具の貸与・購入補助

申請窓口:

市区町村の介護保険担当窓口・地域包括支援センター

上記のサービスは医療保険を使っても受けられることがあるため、申請が間に合わない、でもサービスを受けたい、といった場合には一度相談してみた方がいいかもしれません。


「1ヶ月以内」にしておくこと

⑦ 財産・お金の管理を整理する

認知症が進行すると、金銭管理が難しくなることがあります。本人が判断能力のある今のうちに整理しておくことが、後のトラブルを防ぐうえで非常に重要です。

今のうちにやっておくこと:

  • 銀行口座・通帳・印鑑の場所を家族と共有する
  • 定期的な支払い(公共料金・保険料)の自動引き落とし設定
  • 不要な口座・カードの整理

将来に備えた制度:

制度内容
日常生活自立支援事業判断能力が低下してきた方の財産管理をサポート(社会福祉協議会)
任意後見制度今のうちに信頼できる人を「後見人」に指定しておく制度
法定後見制度判断能力がなくなった後に家庭裁判所が後見人を選任する制度

「お金のことは家族に任せる」と思っていても、制度を利用することで本人の意思・権利が守られやすくなります。


⑧ 「もしものとき」の意思を伝えておく

認知症が進行すると、自分の意思を言葉で伝えることが難しくなります。

今のうちに「もしものとき」の意思を伝えておくことが大切です。

伝えておくと安心なこと:

  • 延命治療についての考え(どこまで治療を望むか)
  • 最期をどこで過ごしたいか(自宅・施設・病院)
  • 好きなもの・嫌いなもの・大切にしてきたこと
  • 葬儀・お墓についての希望

これを「人生会議(アドバンス・ケア・プランニング)」といいます。医師・ケアマネジャーと一緒に考えることもできます。


⑨ 運転の問題を考える

認知症と診断された場合、運転免許の返納を検討する必要があります。

法律上のポイント:

  • 認知症と診断された場合、道路交通法により運転が禁止されます
  • 認知症で事故を起こした場合、本人・家族が法的責任を問われることがある

在宅医療の現場でも「まだ運転できる」という方との話し合いは難しい場面でした。しかし、本人・周囲の安全のために、早めに家族で話し合うことが大切です。


⑩ 自宅の安全を見直す

認知症が進行するにつれて、自宅での転倒・事故が増えやすくなります。

今のうちから自宅の安全を整えておくことで、長く安心して生活できます。

チェックポイント:

  • 段差・ラグ・コードなど転倒しやすいものを減らす
  • 手すりを設置する(玄関・トイレ・浴室)
  • 夜間の照明(センサーライト・足元灯)
  • ガスコンロを電磁調理器に変える(火の消し忘れ対策)
  • 鍵の管理(徘徊(目的なく歩き回る状態)対策として補助錠・アラーム)

福祉用具の購入・レンタルは、介護保険認定後に一部補助が受けられます。


「診断後も続けること」

定期受診を続ける

認知症の薬の効果・副作用を確認するために、定期的な受診を継続することが重要です。

受診のたびに医師に伝えると役立つ情報:

  • 薬の副作用と思われる変化
  • 日常生活での変化(できることが増えた・減った)
  • 飲み忘れの状況
  • 家族から見た最近の様子

好きなこと・楽しいことを続ける

認知症と診断されても、今できることはまだまだたくさんあります。

  • 好きな趣味・活動を続ける
  • 人との交流を保つ
  • 旅行・外出を楽しむ
  • 社会参加(ボランティア・仕事)を続けられる範囲で続ける

認知症の診断は「人生の終わり」ではありません。 今後の生き方・楽しみ方を考えるきっかけにもなります。


やることリスト|優先度順まとめ

タイミングやること
今すぐ①薬を正しく飲み始める
②お薬手帳を整備
③かかりつけ薬局を決める
1週間以内④家族・信頼できる人に伝える
⑤地域包括支援センターに相談
⑥介護保険の申請を検討
1ヶ月以内⑦財産・お金の管理を整理
⑧もしものときの意思を伝える
⑨運転の問題を考える
⑩自宅の安全を見直す
継続的に定期受診・好きなことを続ける・サービスを上手に活用

まとめ|診断は「終わり」ではなく「始まり」

認知症と診断されたときにやることをまとめると、

  1. 薬を正しく飲み始める(早く始めるほど効果が長く続く)
  2. 信頼できる人に伝える(一人で抱え込まない)
  3. 地域包括支援センターに相談する(使えるサービスを知る)

認知症の診断は確かに不安です。ですが、今の医療・介護・地域のサポートは20年前とは比べものにならないほど充実しています。

「できないこと」より「できること」に目を向けながら、生活していきましょう。

薬のこと・生活のこと・サービスのこと——わからないことがあれば、かかりつけの薬剤師に気軽に相談してみてください。


※本記事は調剤薬局・在宅医療を経験した薬剤師による一般的な情報提供を目的としています。具体的な制度の利用・薬の管理については、医師・薬剤師・地域包括支援センターにご相談ください。