「親が何の薬を飲んでいるのか、正直よくわからない」

「薬のことは医師や薬剤師に任せておけば大丈夫だよね」

「最近ふらつきや食欲低下があるけど、薬のせいなのかな?」

認知症の介護では、家族が薬について基本的な知識を持っておくことが、本人の安全を守ることにつながります。

調剤薬局・在宅医療を経験した薬剤師として、薬の飲み過ぎ、飲み合わせ、副作用の見落としなど、家族が知らないことで起こるトラブルを何度も見てきました。

この記事では、認知症の親を介護する家族が知っておきたい薬の管理、お薬手帳、副作用、市販薬やサプリの注意点をお伝えします。

お薬手帳は命を守るツール|まず家族が確認したいこと

認知症の介護で、最初に整えておきたいのがお薬手帳です。

お薬手帳は、ただ薬の名前を書いておくものではありません。

救急搬送、入院、手術、別の病院を受診するときに、本人の薬の情報をすぐ伝えるための大切な道具です。

① お薬手帳に入れておきたい情報

お薬手帳には、次の情報がまとまっていると安心です。

・現在飲んでいる薬の名前
・薬の量、飲む回数、飲むタイミング
・市販薬、サプリメントの情報
・アレルギーがある薬
・過去に副作用が出た薬
・かかりつけ医、かかりつけ薬局の連絡先

認知症が進むと、本人が薬の説明をすることが難しくなります。

家族も急な場面では動揺して、正確に説明できないことがあります。

だからこそ、薬の情報は「聞けばわかる」ではなく、「見ればわかる」状態にしておくことが大切です。

② お薬手帳が役立つ場面

場面役立つ理由
救急搬送されたとき飲んでいる薬をすぐ確認できる
入院・手術のとき飲み合わせや中止薬の確認に使える
別の病院を受診したとき重複処方を防ぎやすい
認知症が進行したとき本人が説明できなくても薬がわかる

いざという時に、何の薬を飲んでいるかわからないと治療が開始できない場合もあります。お薬手帳1冊あるだけで解決できる問題もありますので、お薬手帳は鞄の中や冷蔵庫の前など、家族の誰が見てもすぐ分かる場所に置くことをお勧めするようにしています。

また、外出時はできるだけお薬手帳を持参してください。

スマートフォンで薬の写真を撮っておくのも、補助的な方法として役立ちます。

薬が多すぎる問題|ポリファーマシーに気づく

認知症の方は、高血圧、糖尿病、脂質異常症、骨粗しょう症、不眠、便秘など、複数の病気を抱えていることがあります。

その結果、複数の病院から薬が出て、薬の種類がどんどん増えていくことがあります。

このように、薬が多くなりすぎて副作用や飲み間違いのリスクが高まる状態をポリファーマシーといいます。

① 薬が多いことで起こりやすいこと

薬が多すぎると、次のような問題が起こりやすくなります。

・飲み合わせによる副作用が出やすくなる
・飲み忘れ、飲み間違いが増える
・同じような薬が重複することがある
・眠気、ふらつき、転倒につながることがある
・認知機能に影響する薬が含まれていることがある

特に認知症の方では、「薬が増えたあとから急にぼんやりする」「転びやすくなった」「食欲が落ちた」といった変化が、薬と関係している場合があります。

② 家族が気づきたいサイン

次のような場合は、一度薬の整理を相談してみてください。

・薬が10種類以上ある
・複数の病院から薬をもらっている
・長年同じ薬を続けている
・薬が増える一方で減らない
・ふらつき、眠気、便秘、食欲低下が続いている

「薬が多すぎる気がします」と薬剤師に言って大丈夫です。

薬剤師は、薬の重複、飲み合わせ、副作用の可能性を確認し、必要に応じて医師へ情報提供できます。

認知症の方で注意したい薬|急な変化は薬の影響かも

認知症の方が飲んでいる薬の中には、眠気、ふらつき、混乱、記憶力の低下に関係するものがあります。

もちろん、必要があって処方されている薬も多いので、自己判断で中止してはいけません。

ただし、家族が「薬の影響かもしれない」と気づけることは大切です。

薬の種類起こりうる変化
抗コリン作用のある薬一部の胃薬、膀胱の薬、鼻炎薬など便秘、口の渇き、ぼんやりする
睡眠薬・抗不安薬ベンゾジアゼピン系など眠気、ふらつき、転倒、記憶障害
抗ヒスタミン薬一部の花粉症薬、市販の鼻炎薬など眠気、集中力低下
一部の痛み止め・精神科薬薬の種類による眠気、便秘、ふらつき

特に見てほしいのは、「新しく薬が追加されたあと」に変化が出ていないかです。

・急にぼんやりする
・ふらつきが増えた
・転倒しやすくなった
・食欲が落ちた
・便秘がひどくなった
・怒りっぽさや興奮が強くなった

このような変化があれば、医師や薬剤師に相談してください。

「認知症が進んだから仕方ない」と思っていた症状が、薬の調整で軽くなることもあります。

副作用のサインを見逃さない|家族の観察が大切

認知症の方は、副作用を「気持ち悪い」「ふらふらする」「眠い」と言葉でうまく伝えられないことがあります。

そのため、家族が普段との違いに気づくことが大切です。

気になる変化薬との関係で考えたいこと
食欲がない、吐き気がある認知症薬や胃腸への副作用
ふらつく、転倒が増えた降圧薬、睡眠薬、抗不安薬など
便秘がひどくなった抗コリン作用のある薬、精神科薬など
急に興奮する、怒りっぽい薬の影響やせん妄の可能性
皮膚が赤い、かゆい薬によるアレルギーの可能性
急にぼんやりする薬の影響、脱水、感染症など

ここで大切なのは、「いつから変わったか」をメモしておくことです。

たとえば、

・薬が追加された日
・症状が出始めた日
・食事量や水分量の変化
・転倒した日
・眠気が強かった時間帯

こうした情報があると、医師や薬剤師が原因を考えやすくなります。

小さな変化でも、「いつもと違う」と感じたら記録しておくと安心です。

市販薬・サプリを勝手に追加しない

「ドラッグストアで買えるものだから安全」と思って、市販薬やサプリを追加してしまうことがあります。

でも、処方薬と一緒に使うことで、飲み合わせの問題が起こる場合があります。

特に認知症の方では、市販の鼻炎薬、睡眠改善薬、風邪薬、サプリメントに注意が必要です。

市販薬・サプリ注意したい理由
市販の鼻炎薬・風邪薬眠気やぼんやり感が強くなることがある
睡眠改善薬ふらつき、転倒、混乱につながることがある
イチョウ葉エキスなど血液をサラサラにする薬との飲み合わせに注意
カルシウム・鉄サプリ一部の薬の吸収を邪魔することがある
グレープフルーツ一部の降圧薬や脂質異常症薬に影響することがある

市販薬やサプリを使いたいときは、購入前に薬剤師へ相談してください。

そのときは、お薬手帳を見せながら、

「この薬と一緒に使って大丈夫ですか?」

と聞くのが一番確実です。

薬剤師をうまく活用する|家族だけで抱え込まない

薬剤師は、薬を渡すだけの人ではありません。

認知症介護では、薬の飲み方、飲み忘れ、副作用、飲み合わせについて相談できる相手です。

① 薬剤師に相談できること

薬剤師には、次のような相談ができます。

・薬が多すぎないか
・飲み合わせに問題がないか
・副作用の可能性はあるか
・一包化できるか
・粉薬や貼り薬に変更できるか
・市販薬やサプリを使ってよいか
・飲み忘れたときにどうすればよいか

「こんなこと聞いていいのかな」と遠慮しなくて大丈夫です。

むしろ、薬剤師としては、家族から生活の様子を教えてもらえることで、薬の問題に気づきやすくなります。

② 訪問薬剤師という選択肢

在宅医療を利用している場合は、薬剤師が自宅に訪問して薬の管理をサポートすることがあります。

訪問薬剤師は、薬の残り、飲み忘れ、副作用、保管状況などを確認し、必要に応じて医師やケアマネジャーと情報を共有します。

薬が大量に余っている、飲み間違いが多い、家族だけで管理が難しい。

こうした場合は、かかりつけ医、薬局、ケアマネジャーに相談してみてください。

緊急時の準備と介護者自身の健康

認知症の方が急に入院したり、救急搬送されたりしたとき、家族がすぐ情報を出せると医療者は助かります。

次の情報を、A4用紙1枚やスマートフォンにまとめておくと安心です。

・お薬手帳の場所
・薬の名前、量、飲む回数
・副作用が出た薬、アレルギーのある薬
・かかりつけ医、薬局の連絡先
・認知症の種類や診断名
・服薬介助で工夫していること
・本人が嫌がること、安心する声かけ

在宅医療の現場では、「救急袋」として上記の情報をA4一枚にまとめて冷蔵庫に貼っておくことをよく勧めていました。救急隊員がまず確認する場所が冷蔵庫だからです。

最後に、介護者自身の健康も大切です。

認知症介護は長期的になることが多いです。介護者が疲れ切ってしまうと、薬の管理も、毎日の介護も続けることが難しくなります。

80代の母親を一人で介護していた60代の女性がいました。「誰にも頼らず自分でやらなきゃ」と思い込んでいて、ご自身の血圧の薬を取りに来る時間すら惜しんでいるほど疲弊していました。ケアマネジャーに相談してデイサービスの利用日を増やしてからは、「久しぶりに自分のための時間ができました」と少し笑顔を見せてくれるようになりました。介護者自身が倒れてしまっては、本人を支えることもできなくなってしまいます。

「自分が頑張ればいい」と抱え込まず、ケアマネジャーや地域包括支援センターに相談してください。

デイサービス、訪問介護、ショートステイなどを使うことは、手抜きではありません。

介護を続けるための大切な準備です。

まとめ|薬の知識は認知症介護の守りになる

認知症介護で家族が知っておきたい薬の知識について整理すると、

・お薬手帳は最新の状態にして、すぐ見つかる場所に置く
・薬が多すぎると感じたら、薬剤師に相談する
・急なふらつき、眠気、食欲低下は薬の影響も考える
・市販薬やサプリを追加するときは、必ず薬剤師に確認する
・薬の管理が難しいときは、一包化や訪問薬剤師を活用する
・介護者自身が疲れ切る前に、ケアマネジャーや地域包括支援センターへ相談する

「薬のことは医師や薬剤師に任せる」は間違いではありません。

ただ、「家族は何も知らなくていい」という意味ではありません。

家族が普段の様子を見て、気づいた変化を医師や薬剤師に伝えることで、副作用の早期発見や薬の見直しにつながります。

症状が強い場合や長く続く場合は、一度薬剤師や医療機関にご相談ください。

※本記事は調剤薬局・在宅医療を経験した薬剤師による一般的な情報提供を目的としています。
症状が強い場合や不安がある場合は、医療機関にご相談ください。

具体的な薬の管理・変更・中止については、処方した医師または薬剤師にご相談ください。