「睡眠不足が認知症リスクを高めるって本当?」「親が夜眠れていないけど、認知症と関係ある?」「何時間寝れば認知症予防になるの?」

睡眠と認知症の関係について、近年の研究で多くのことがわかってきました。

認知症の方の睡眠の問題は在宅医療の現場でも非常に多く経験してきました。

睡眠不足は認知症リスクを高める重要な因子のひとつです。 そして認知症の方は睡眠障害を起こしやすく、それがさらに症状を悪化させるという悪循環に陥りやすいです。

この記事では、睡眠と認知症の関係の仕組み・睡眠不足がリスクを高める理由・認知症の方の睡眠問題の対処法を薬剤師の視点からわかりやすく解説します。


なぜ睡眠が認知症予防に重要なのか

脳の「お掃除システム」:グリンファティックシステム

睡眠中、脳ではグリンファティックシステムという老廃物を洗い流す仕組みが働きます。

この「お掃除システム」は、睡眠中(特に深い眠りのとき)に最も活発に働きます。

睡眠不足が続くと、このシステムが働く時間が短くなり、

  • アミロイドβが脳内に蓄積されやすくなる
  • タウタンパク質(認知症と関連するもうひとつの物質)も増加する
  • 蓄積が進むことで神経細胞が傷つき、認知症リスクが高まる

といったリスクがあります。


研究で示された睡眠と認知症の関係

複数の大規模研究で、睡眠と認知症の関連が示されるようになりました。

端的にいうと、「睡眠時間が短い(6時間未満)と認知症リスクが上がり、睡眠時間が長すぎる(9時間以上)状態が続くと認知症リスクが高まる」といった研究結果になっています。

最適な睡眠時間の目安は「7〜8時間」とされていますが、個人差があります。

大切なのは「十分な睡眠時間」がとれるよう意識し、どうすれば「睡眠の質」を高められるかを考えることです。


睡眠不足が認知症リスクを高める3つのメカニズム

①アミロイドβの蓄積

前述のグリンファティックシステムという「お掃除システム」が機能しにくくなることで、アルツハイマー型認知症の原因物質であるアミロイドβが脳内に蓄積されやすくなります。

アミロイドβは症状が出る20〜30年前から蓄積が始まるとされています。

つまり、40〜50代からの睡眠の質が、老後の認知症リスクに影響するということになります。

炎症性物質の増加

睡眠不足は体内で慢性的な炎症を引き起こしますが、脳内での炎症反応も高めます。

慢性的な炎症は神経細胞にダメージを与え、認知機能の低下につながります。

③生活習慣病リスクの悪化

睡眠不足が続くと、以下の生活習慣病のリスクが高まります。

  • 高血圧
  • 糖尿病
  • 肥満
  • うつ病 など

これらの生活習慣病は認知症リスク因子を悪化させることにもなります。


認知症の方に多い睡眠の問題

認知症の方は、健康な高齢者と比べて睡眠障害を起こしやすいことがわかっています。

① 昼夜逆転(概日リズム障害)

加齢に伴い体内時計を調整するメラトニンの分泌が低下します。

その結果、睡眠障害が引き起こされるのですが、認知症の方は「今が何時なのか」がわからなくなってしまうことがあります。

そのため、昼夜のリズムが崩れ、昼間に眠ってしまい夜中に起きて行動するという「昼夜逆転」が起きやすくなります。

在宅医療の現場で多く相談を受けた睡眠の問題がこの「昼夜逆転」です。

「夜中に大声を出す」「夜中に徘徊する」という症状の背景に、昼夜逆転があるケースが多かったです。

② レム睡眠行動障害(RBD)

夢を見ているときに体が動いてしまう状態です。レビー小体型認知症と特に強く関連しており、認知症と診断される何年も前から現れることもあります。

わかりやすい症状としては、

  • 眠っているときに大声を出す
  • 手足をばたつかせる・パートナーを蹴る・殴る
  • 起きているときとはまったく異なる行動をとる

といったものがあります。

③ 睡眠時無呼吸症候群(SAS)

睡眠中に呼吸が止まったり浅くなったりする状態のことを睡眠時無呼吸症候群といいます。

脳への酸素供給が慢性的に低下し、認知症リスクを高めます。

「大きないびき」「日中の強い眠気」「夜中に何度も起きる」という症状があれば、病院で検査を考えてみてもいいかもしれません。


認知症の方の睡眠問題への対処法

まず薬を使わない方法(非薬物療法)から試してみましょう。

睡眠薬は認知症の方に使うと転倒・日中の眠気・さらなる認知機能の低下リスクがあるため、まずは生活習慣の改善から始めることが基本です。

① 日中の活動量を増やす

夜になかなか眠れないという方へは以下の方法がおすすめです。

  • 明るい時間に外出・散歩をして日光を浴びる
  • デイサービスへ参加し、規則正しい生活を送る
  • 昼寝は30分以内にとどめる

② 光療法(日光浴)

明るい光、特に朝に日光を浴びることで、体内時計がリセットされ昼夜のリズムが整います。

  • 起床後にカーテンを開けて日光を浴びる
  • 晴れた日は外出して自然光を浴びる(30分程度)
  • 室内では明るい照明を活用する

③ 就寝前のルーティンを整える

寝つきをよくするためには寝る前の準備や環境を整えることも大切です。

  • 毎日同じ時間に寝起きする
  • 就寝1〜2時間前は強い光・スマートフォンを避ける
  • 温かいお風呂(就寝1〜2時間前)
  • リラックスできる音楽・アロマなど

④ 就寝環境を整える

  • 寝室を暗く・静かに・適温(18〜22℃程度)に保つ
  • 夜間の過度な明るさを避ける
  • ナイトライト(足元灯)でトイレへの移動を安全に

それでも眠れない場合には一時的に薬に頼ることも必要かもしれません。

非薬物療法で改善しない場合には、医師に相談してみましょう。

睡眠薬には様々な種類があり、その中には認知症の方には避けた方がよい睡眠薬もあります。

薬の選択については、必ず医師・薬剤師に相談してください。


認知症予防のための睡眠習慣

認知症に対する不安がある方でも、睡眠の質を高めることが今からできる認知症予防になります。

今日からできること

習慣にしたいことポイント
毎日同じ時間に寝起きする体内時計を整える
7~8時間の睡眠を確保する適切な睡眠時間が大切
起床後に日光を浴びるメラトニン分泌のリズムを整える
就寝前のスマートフォンを控えるブルーライトがメラトニン分泌を妨げてしまう
寝る直前にアルコールを摂らない深い眠りを妨げ、夜中に目が覚めやすくなる

睡眠の質を上げるサプリ・食品

  • バナナ・牛乳・大豆製品:メラトニンの原料になるトリプトファンが豊富
  • えび・ほたて・鶏肉など:深い睡眠を促すグリシンが豊富
  • ナッツ・海藻・玄米:神経の緊張を和らげるマグネシウムが豊富

睡眠サプリについては、飲み合わせの問題が少ないものが多いですが、服用中の薬がある場合は薬剤師に相談してから使用してください。


受診を考えたほうがよいサイン

以下の症状がある場合は、かかりつけ医に相談してみてください。

  • 大きないびき・無呼吸がある
  • 眠っているときに体が動く・大声を出す
  • 慢性的な不眠が2〜3ヶ月以上続いている
  • 日中の眠気がひどく日常生活に支障がある
  • 夜間の行動変化(夜中に起き出して活動するなど)が突然始まった

まとめ:睡眠は「脳のメンテナンス」の時間

認知症と睡眠はとても深い関係にあります。

「よく眠ること」は、脳のメンテナンスの時間です。

今夜からの睡眠習慣が、将来の脳の健康を守ることにつながります。


※本記事は調剤薬局・在宅医療を経験した薬剤師による一般的な情報提供を目的としています。睡眠の問題・薬の使用については必ず医師・薬剤師にご相談ください。